交わる異種 * ページ26
「情を移すなとあれほど……」
何を、……何をいけしゃあしゃあと!
「私のこれは情なんて軽薄なものじゃありません」
自分でも驚く程に低い声が出る。
もう我慢ならなかった。
これ以上、彼が不当な扱いを受ける事も、私の愛をおざなりにされる事も!
「じゃあその、君の……君の私情で、今後人々が傷付けられても構わないと言うのか」
「お言葉ですが主任、彼は手を出されて身の危険を感じたからやり返しただけです。人間なら正当防衛に当たります」
「その正当防衛で何人が死んだと思っている。それにアレは人間ではなく化け物だ。法律も常識も道徳も、何も通じやしない」
「でも話は通じます!」
「その話の全てが嘘だったらどうするんだ!責任は取れるのか!?君が騙されていて、あまつさえ殺されてしまったら!」
「それでも構いません!」
「お、おい!?どこへ行く!Aッ!」
感情に任せて部屋を飛び出した。
もうどうでも良かった。誰が殺されても、私が殺されても。
何も考えたくなかった。
全てが嘘だったなんて、考えたくなかった。
手の震えが、怒りなのか何なのか、自分でも分からない。
ただ彼に会いたくて、収容室の物々しい扉に付いている厳重なロックを解錠する。
「急に来てしまってごめんなさい、会いたくなってしまって、――え?は……主、任……?」
「……だから通じやしないと言ったじゃないか、A。嗚呼、そうだ。今更好きじゃなくなった、だなんて事は止しておくれよ?構わないと言ったのは君だぞ」
背後から主任の声がして、嫌な汗が額を伝う。
視界の端に映った、背後に居る彼の肉体は、ぐにゃり、と音を立てて、見慣れたナニカに移り変わる。
そう言えば、主任は私の事を呼び捨てになどしない。
収容室に残されたのは、血溜まりと、いつのものか見当の付かない主任の死体だけだった。
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miko(プロフ) - 通りすがりの人Aさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…!タイプと言って頂けて光栄です。考察までしてくださって嬉しい限りです!お心遣いもありがとうございます。次回作も楽しんで頂けると幸いです。 (5月9日 18時) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - 「大人になるということ」、個人的な考察として富士樹海のことなのかなぁと勝手に考察していました。樹海のまた別の特長も相まって人生に迷子になっちゃったんだろうなぁと、考察のしがいがありました。次回作も読ませていただきます。 (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - コメント失礼します。話の展開や言葉遣い、細部に至るまでのこだわり、本当にタイプの文に久しぶりに出会えて大満足です。素敵な作品ありがとうございます。→(字数上次になりますが次の文は考察含みますので作品様の方針にそぐわない場合消していただいて構いません) (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
miko(プロフ) - 富司純河さん» 励みになるお言葉をありがとうございます…! (4月30日 2時) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
富司純河(プロフ) - 続編お待ちしております。 (4月29日 10時) (レス) @page49 id: ecd0918c08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:miko | 作成日時:2023年5月10日 3時